それは、あらゆる食物がほとんどそこをつく飢餓期の最盛期になると、狩猟採集民は、しばしば、しとめた獲物の肉の特定部分を、
ときには全部を、食べないで捨ててしまうという行動である。
例えばオーストラリアのピチャンジャラ族は、しとめたカンガルーに近づくと、肉に脂肪がどれだけついているか尻尾で調べ、
その様子がかんばしくない場合は、そのまま捨てていく。
また、考古学者たちの頭を長い間悩ましてきた問題がある。
それは、アメリカの大平原地帯の古代の野牛狩りの跡についてである。
殺した野牛の数箇所だけが持ち去られており、おそらくその部分は食べられたと思われるが、そのほかの部分は、食べられもせずに、
たおした場所にそのまま置き去りになっているのだ。
この一見不合理で気まぐれと思える行為に対する説明は、狩人たちが脂気のない肉ばかり食べていると餓死する危険があるから、ということだ。
長年エスキモーと暮らし、生肉だけを食べて健康を保つすべを学んだヴィルジャルムル・ステファンソンは、
そういう食事は肉に脂肪が多い場合にのみ成立する、と警告している。
かれは、エスキモーやインディアン、またアメリカ西部海岸地帯の初期探検者たちの多くが、脂気のないウサギの肉を食べすぎたために
かかったと考えられていた症状、つまりかれらが「ウサギ飢餓」と呼んだ現象の生々しい描写を残している。
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